経営指針物語 3

"第3話 アサヒスーパードライ"

横木 正幸

 

 迷路の世界に飛び込んで最初に出会ったのが「三つの第一」。これが経営の原理・原則であって、これが理解できないと前へ進めないという。
 その三つの最初の第一は、「お客様第一主義」に徹するということだという。これを「社会性」というのだそうだ。そんな事は今まで考えた事もない。今までの考えは、なんと言っても「我が社第一主義」である。自分の為に働いているのであって、お客様のために働いているなんて考えもしなかった。まず、第一歩からつまづく。そこでアサヒビールの物語に出会った。
 アサヒビールは大企業である。しかし、今晩の晩酌にアサヒビールを飲まなければぐっすり眠れないと言う人はいなかったという。アサヒがなくてもキリンがある。サッポロがある。アサヒビールは大企業の中の弱者であった。アサヒビールが自信を持って作った商品がお客様から見捨てられていたのである。お客様はアサヒビールを飲まなくても良かったのだ。それでは、どういうビールを作ればお客様が飲んでくれるのか?
 そこで、お客様はどんなビールを飲みたいと思っているのかアンケートをとろうということになった。街の酒屋さんを通じて集めたアンケートの結果は「コクのあるビールが飲みたい」「キレのいいビールが飲みたい」という答えが圧倒的に多かったという。
 答えは出た。だったら、そういうビールを作ればお客様は飲んでくれる筈だ。それがアサヒスーパードライの誕生であった。それでは、それまでのアサヒビールはそんなに不味かったのか。他社に先駆けて生ビールに挑戦したり、技術陣は頑張っていた。いや、がんばっていた「つもり」だった。アサヒビールのお客様は問屋であり、酒屋さんであると錯覚していたのに違いない。アサヒビールのお客様は、ビールを買って栓を抜いて、グラスに注いで飲んでくれる人なんだという事に気付くまでに長い時間を要したのだ。自分たちの製品を押し付けても、お客様は買ってはくれない。お客様が求めているものを提供することが「お客様第一主義」なのだと気付いたという。お客様の希望に応えてコクがあり、キレのあるビール、アサヒスーパードライの誕生を見たのである。それからのアサヒビールの驚異の進撃が始まったのは皆さんご存知の通りである。
 考えてみるまでもなく、私たちも同じである。今までは角の酒屋さんで買っていたビールも、向かいの24時間に行けば銘柄も揃っているし、夜中でも買える。安くて便利の良いところへ私たちは買いに行く。
 そう考えれば、お客様のお役にたつために、お客様に喜んでいただくために、製造・販売をしていることになる。お客様第一主義とは、「お客様の言いなりになることではない。お客様のお役に立つこと。お客様に喜んでもらうことなのだ」と理解・納得をした。

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