経営指針物語 14

"第14話 経営理念と出会う"

横木 正幸

 

 考えてみれば、食っていければいいとはじめた商売だった。商売なんてのは、うまくいくときもあれば、そうでないときもある。そのうちに何とかなるだろうと考えていた。おれの人生は「こんなもんだ」と思い込んでいた。
 確かになんとかなっている。だけど、何かが違う。何かが変だ。「こんなもんだ人生」ではなかった筈だ。それがこの「経営指針」を勉強する動機であった。
 好きではじめた経営指針の勉強だが、何でこんな悩み苦しまなければならないのだろうか。勉強をすればするほど、自分の知識のなさ、知恵のなさ=勉強不足に気づかされる。こんな苦労をするなら辞めてしまえばいいのに、勉強なんかしなくてもこれまでやってこれたじぁあないか…と、「もう一人の自分」が囁きかける。今まで何十年も同居してきた「もう一人の自分」は優しく語りかけてくる。
 しかし、苦しいのに、辛いのに、辞めたくない。この勉強を辞めたら何を支えに経営をすればいいのかという不安を覚える。勉強を途中でやめたくない。何が何でも頑張るぞと挑戦を続けた。何がこんなに自分を駆り立てるのか。一つは、知らないことを知る楽しさに出会った。だけどそれだけではない。何かが力強く駆り立てる。
 何か心を支える物が欲しい。それが「経営理念」であると言う。理念のない経営羽の内規と同じだと言う。そうか!足りなかったのはこれなんだと気がついた。経営理念を辞書で引くと「企業の目的・正確・基本となる考えかたを総称したもので、企業としての『あるべき姿』、または基本的方向・行動基準を定めたもの」と書いてあり、経営者の『心の叫び』であると言う。経営理念は次の五項目にまとめられている。
  
一、人生行路を照らす導きの星である。
  二、豊かな創造と前進をもたらすバネである。
  三、大樹をはらんだ種子である。
  四、正義の信念を燃やす核である。
  五、自己を静に客観視する座標軸である。

 そして経営理念は「すべての人が納得し、経営者自らを確信するものでなくてはならない」という。
 はじめて出会った経営理念の部屋だった。どこから手をつけたらいいのか見当がつかない。「俺はなんで経営に携わっているのだろう?」と何度も考える。ここが大事なんだと言い聞かせながら考える。
 ある時、フッと気がついた。そうだ!「俺は印刷の仕事が好きなんだ。だからやっているんだ。」と気がついた。そうか!好きだからやっているんだ。そんなに難しく考える必要はなかった。俺の経営の原点はこれだったんだ。と気がついてホッとした。
 一変に霧が晴れたような気がした。モヤモヤしていたものが一瞬にして消えた。よし、これなら成文化が出来るぞ!と小さな自身が湧いてきた。
 経営理念との出会い。それは自分の人生を大きく変えた。素晴らしい出会いだった。器の大きくなった自分がそこにいた。


続く



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